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朝日新聞「音楽人♪File」-3
2009.07.17

 ライブとは「非日常」の空間だ、と思う。つまり「ハレ」と「ケ」で区別するなら「ハレ」、祭りに近い感覚が根本的にある、と感じる。そしてライブとは、人前で演奏することが常に緊張感を伴い、オーディエンスの表情を目の当たりにする、という意味で、音楽における最もシビアかつストレートな現場であり、最前線であると思う。
 ギター1本担いで、年間150本以上のライブをやっていたのは、大学卒業後の24〜28歳ごろのことだ。ちょうど「クラブ・シーン」なるアヤしげな夜の世界が最後の隆盛を見せていた時期であり、DJイベントやライブイベント、普通のライブハウスやカフェなど、全国津々浦々、ある時は深夜2時や4時頃まで、暗がりの中で演奏した。もちろん終わったら浴びる程強い酒を飲み交わし、時には1日3本のライブをハシゴすることもあった。出会いが出会いを呼び、様々な場所に出かけ、本当にたくさんの人と会った。
 今の僕の音楽の基本は、その「狂ったように」ライブをやっていた時期に培われたものだ、と思う。あの頃は人前に出ていないと不安で、来た話は全部引き受けていた。キツいこともうれしいこともあったけど、ライブとは「ハレ」の場であり、音楽の原点は「人間の喜び」なんだと体で分かることが出来たのは本当に大きかったと思う。
 その後シンガポールやパリ、ソウルなど外国の様々な場所で演奏する機会があったけど、音楽が「ハレ」の場であり、お客さんの笑顔が何よりの喜びである、というのは本当に何一つ変わらなかった。そしてそこから広がる出会いの求心力は、それはそれはポジティブなエネルギーにあふれたもので、強靭な波のように波及してゆく。
 僕は音楽とは一種の「大道芸」だと思っている。一見さんの心をつかみ、引き込み、音楽が時間とともに瞬間的に消えてゆく宿命を共有すること、それは音楽の大きな喜びの一つだ、と感じる。僕は大きな誇りを持ってその世界に邁進して行きたいと思っている。もちろん人生の時間全てを使ってだ。

<朝日新聞・2009年7月17日(金)夕刊掲載>

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